課金バトルが今、始まるーーー
“願いが叶う”と銘打たれた泉。
パンフレットには金ピカの字、ただし、現物はみすぼらしい。
立て札は腐り、塗装は剥げ、伝説は紙の上にしか残っていない。
曰く 「古代宇宙文明の巫女がここで恋の祈願をした」 ――したのか、しなかったのか、いやしたのかもしれない。その程度の根拠で今日も行列は絶えない。そこにカップル、家族連れ、謎の修学旅行生。そしてコスモロード社の二人組──副社長ダニエルと社長カネア様。
「願いが叶うんですって、ダニエル」
「またまた……」
「コイン投げると叶うらしいですわよ」
ダニエルは“うそくさ”の文字を顔面に貼りつけたまま、財布の存在を全力で忘れようとした。だがカネアが指揮棒のように右手を伸ばし、「お財布」と一言で指示。
自分の願いを叶えるために、他人の財布を出させるという発想は、ある意味で願いがすでに叶っている状態とも言える。
(えっ、人の金で?)
心の声は無視され、ポケットから出てきたのはレシートとねじれた紙クリップ。
それでも小銭をかき集め、無言で献上した。
カネアは、まるで自分で稼いだ金のように、コインをひょいと弾いた。
放物線を描いて、水面へ。
そして言った。
「ゴロー様があたくしのものになりますように❤️」
「⁉️‼️⁉️⁉️」
その願いを聞くや否やダニエルのこめかみビキビキ、イナズマ血管ドーン。“金の出どころは俺なのに”という哀しみが胸を締めつける。彼も急いでコインを持ち上げ、空へ祈りをパス。
(カネア様の願いがいかなる形でも叶いませんように‼️‼️‼️‼️)
互いの“叶う力”を相殺し合う、あまりにもしょうもない心理戦。こうして、願いが叶うはずの泉は、願い同士が正面衝突したことで、
ただの小銭回収装置に成り下がった。
投げ終えた二人は、互いの願いについては沈黙(※正確にはダニエルだけが秘匿)。
周囲の観光客は、なにか“濁った愛”の気配を感じたのか、空気がカビ臭いと言い残してサクッと移動した。
「ふふ、これでゴロー様はあたくしのものですわ」
完全勝利とばかりにほくそ笑む。
「いや、わたしが全力で防御しましたから」
「何の話ですの」
「……なんでも」
泉は静かだが、水底のコインたちはチャリンとざわめいた気配。(愛か妨害か、どっちに肩入れ?)(知らんがな)と金属音の会議が開かれたらしい。水質も若干濁った──たぶんコインのストレス。