コスモロード社の昼下がり。ふたりでテーブルを囲んで、「ツアー企画用紙」というたいそうな名前の紙を広げている。
書いてあるのは、一言――「星、見る。」たったそれだけ。マルつけたくなるほど潔い。これが“企画書”、5時間の熟議を経てこの体たらく。
「……で、星を見て、それから……?」
「……“なんか、キラキラした感じ”にしますわ……」
「ふんわりすぎませんか?????」
ふんわりしているのはパンケーキだけでいい。ポテトチップとチョコレートとマシュマロを次々と空にしていく。アイデアも、空っぽのまま。大事なことほど、空腹で考えてはいけない。
そこへMAMが、なぜか申し訳なさそうに起動した。
「おふたり、進捗いかがでしょうか……?」
「“星を見たい”ところまでは出ました」
「進捗0.3%と記録いたします」
冷静な言葉が軽い鞭打ちのように響いた。MAMは気まずさを残して静かにログアウトした。
ホワイトボードには「夜」「宇宙」「ロマン」「秘密基地」など“語感だけ最高”な単語が並んでいる。意味がなくとも、響きだけで楽しむのが人間である。しかし語感は企画を救わない。
「ねえ、あれよ、隕石を掘るとか……」
「………」
もう“ツアー”とは何かという哲学になってきている。
観光とは何か? 我々の存在とは? 星を見るとは……?
さらに1時間経過、沈黙。冷えたカップ麺、机の上には、マーカーと絶望。 「銀河っぽいアクティビティ」と書いたメモの下に “う〜ん” とだけ。
夜。ベッド。天井を見つめるふたり。そこに星はない。漂うのは、敗北感と親密さ。
カネアがぽつりと言う。
「“ここに来てよかったな”って言わせたいだけなんですのよね」
「……じゃあそれ、書いておきましょう」
ダニエルは震える手で、紙にメモを取った。
「ここに来てよかったな、って言わせるツアー」
(そして始まる。何も決まっていないツアーが。)